囲碁の見かた

 気温はゆっくりと下り、蝉ももう鳴くのをやめてしまった。遠くで打ち上がる花火の音が聞こえる。窓越しに空を探してみたが、暗い雲があるばかりだった。聞き間違いだったかもしれない。

 食事時、ぼんやりとテレビを見ていた。NHK囲碁番組が流れている。囲碁なんてルールもろくに理解していない。石で囲めば石が取れる、ということだけしか知らない。それでも、解説を聞きながら注意深く眺めていると、基本的な駆け引きが少しだけ分かった。

 相手が白石を打つ。その石を取るには四つの黒石で上下左右を囲む必要がある。まずは黒石を白石の隣に置いてみる。相手は白石が取られるのを嫌がって、白石の隣にもう一つ白石を並べる。すると、白石の面積が大きくなって、それらを囲むのに最低六個の黒石が必要になる。黒のプレイヤーが攻めるのに手数がかかるので、白のプレイヤーは他のところを攻めることができる。これが、シンプルな攻防だ。

 攻めようとする石は斜めに置かれる。斜めに並んだ石は、上下左右が空いているために、分断されやすい。それを防ぐために、L字につないだりすることも多い。

 攻めに手数がかかるゲームなので、簡単に石を取ることはできない。そこで、置き石を使う。もし、相手の石を囲うための石が一つ置いてあるなら、攻め手を省略できる。たとえば、もし相手が置き石の隣に石を置いたなら、すぐさま四個の石で囲む攻めができる。これはもちろん、守りにも使うことができる。

 囲碁の定石では、いきなり中央で戦うのではなく、盤面を上下に四つ折りした区画に分かれて戦うようだ。囲まれる、勝てないとわかった区画は諦めて、他の場所を攻める。そうすることで、負けそうな区画に石をつないだり、敵の攻め石を奪ったりすることができる。

 実に不思議なことに、ある戦場で、どうがんばっても石が囲まれてしまう、ということがわかったとしても、その戦場の決着はつかない。なぜかというと、手数がかかるため。攻め側が決着をつけようと動いたとしても、守り側が他の戦場を攻めてしまう。ゲーム全体としての勝ちを狙うなら、どの戦場にも気を配らなければならない。各戦場は離れているとはいえ盤面はつながっているので、異なる戦場の石が、置き石として機能する。そのため、一旦勝ちが確定した戦場であっても、油断することはできない。

 四つの小さなコロニーがライフゲームのように成長していく。終局の盤面を一目見ても、白黒の散りばめられたキレイな模様にしか見えない。極めてシンプルなルールから生じる、複雑な駆け引き。脈絡なく石を並べているように見えて、確かにそこには理屈がある。思いがけない魅力を発見して、ゲーマーとして成長したような満足感を覚えた。