植物の葉による拡大再生産

曇りや雨の日が続いた。変わらないことは数えきれないほどあるけれど、変わったことも多かった。上着を羽織る必要がなくなった。畑が二つ潰れて、駐車場を作る工事が始まった。踏切近くの家から不慣れなベース音が聞こえるようになった。小雨の日に、一匹だけ、確かな蛙の声が聞こえた。何キロも離れた鉄道から聞こえる電車の音が、悪くない事に気づいた。目に見えるものや、聞こえてくるもので、まだ注意払っていないものが無数にある。

百円ショップで購入した観葉植物を育てて一年近く経つ。たいして世話を焼いているわけでもないのに、順調に成長していて、一株だったのが半年で三株に増えた。もう新しい芽が出始めていて、まだ増えるつもりらしい。半年ごとに3倍になるとしたら、次の半年で9個になる。次の半年で27個になる。

植物は遠慮も慎みもなく枝葉を伸ばす。光を目一杯受けるために、隙間なく葉を広げる。光を受けた葉は、その力を溜めて新しい葉を増やす。その循環は、拡大再生産を行っていると言ってもいいかもしれない。どれくらいの速さで成長していくだろうか。1枚の葉っぱが100枚に増えるまでにかかる日数 D を考えてみよう。

1枚の葉っぱが1日光を浴びて得るエネルギーを 1leaf と定める。また、2枚目の葉を増やすのに必要なコストを x と仮定する。

最初は、たった1枚の葉っぱしか持たないとしよう。その植物が x 日間光を浴びると x leaf が貯まり、2枚目の葉が生まれる。2枚の葉があるときは x/2日 で x leaf が貯まり、次の葉が生まれる。

このことから、100枚目になるまでの日数をD(100)と書くとき、その値は下の式で表すことができる。

D(100) = x + x/2 + x/3 + x/4 + x/5 + x/6 + x/7 + x/8 + x/9 + … + x/99

通分して計算することもできるが、簡単に解くことはできないので概算する。
n 番目の項 1/n に対して 1/n < 1/2^p を満たす最小の p を選び、(1/2)^p で置き換えた値は下記の式を満たす。

D(100) < x + x/2 + x/2 + x/4 + x/4 + x/4 + x/4 + x/8 + x/8 + … + x/64

D(100) < x + (x/2 + x/2) + (x/4 + x/4 + x/4 + x/4) + x/8 + x/8 + … + x/64

上の式で 1,2,4,8,16,32,64個の項の和が、それぞれ x になることから D(100) < 7x と結論が出る。最初の1枚目、始まりの葉が7枚目の葉を生み出すときには、もう全体で100枚の葉っぱが生え揃っているということだ。

1000枚ならどうだろうか。同じように計算すると D(1000) < 10x となる。始まりの葉が10枚目の葉を生産したときには、1000枚めになっているということだ。

そもそも光だけで葉を生み出すエネルギーを得ているわけではないし、枝を伸ばすのに使うコスト、葉っぱの寿命や維持するのにかかるコストも考えていない。数値のお遊びではあるが、植物が爆発的に広がっていく姿が見えるような気がしないだろうか。