説明は言い切りから始める

 誰も居ない休日の昼頃に家を出た。花壇からはみ出したツツジの花が、落ちて転がっている。少し歩いた。眠っていた畑が整えられ、いつの間にか麦畑になっていた。穂はまっすぐに伸びて青々としている。緑の匂いがする。容赦なく刈り取られた雑草が横たわっていた。中には、綿毛を飛ばし終えたタンポポがあった。

 僕は、何かを説明しようとするときは、どんな風に言い切るか検討する。誰かに「○○○って何?」と聞かれたとき「***だよ」と主題を与えるためだ。そこがうまく言い切れなかったら、だいたいの説明は六十点以下になる。

 例えば、最近勉強したブロックチェーンについて、言い切りを考えてみよう。ブロックチェーンとは何か。調べていると度々見かける「分散型台帳」という言葉を借りるのも悪くないが、まだイメージできない。

 こういうときには、単純化をしよう。飾りをはぎ落として丸裸にしよう。生まれたてのブロックチェーン、未成熟なブロックチェーンを想像する。手書きでやってるかもしれない。改ざんはされ放題かもしれない。それは何か。おそらく、そこには、誰から誰へお金を渡す、という取引が並んでいるだろう。それが、もともとブロックチェーンが表現しようとしていたものだからだ。

 式のように書くなら「ブロックチェーン=取引の列」となる。この式は数学的に不正確なだけでなく、多くの情報を欠いている。ブロックチェーンの登場人物「ブロック」という容器の話を置き去りにしている。それらが改ざんを防ぐための仕組みを持っていることも、ネットワークの話も、非中央集権という重要な考え方も、ビットコインとの関わりも一切触れていない。

 それでも「ブロックチェーン=取引の列」と書いたのは、それが入り口で核だからだ。取引から説明して、では安全な取引をするためにどのような技術を使っているか、という広げ方をすれば、落としている情報を後から回収できる。こんな風に「X=Y」の言い切りを持っていると、爽やかに話を進められる。「あれ? 何の話をしてたんだっけ」という霧に包まれることがほとんどなくなり、説明の筋道を立てやすくなる。よく聞かれることについては、予め準備しておくべきだ。たとえば、自分の仕事を聞かれた場合に備えて自社製品を言い切ることはできるだろうか。