嘘つき姫と盲目王子

嘘つき姫と盲目王子というゲームを遊んだ。

これは、本当に難しい。ゲームが難しいと言うわけじゃなくて、面白いか面白くないか、そう言う話をするのが難しい。パズルに頭を悩まされる場面はほとんどなくて、終幕まで五時間ばかりしかない。追加・収集要素にも乏しい。やりがいとか、満足感を与えてくれない。なんだじゃあ駄作じゃん、と言いたくなるんだけど、それでも何か、感動の五分咲きと言うか。満たされないまでも、心にくるものが確かにあった。だから難しい。

それはやっぱり物語の良さから来ているところが大きい。物語全体よりも、とにかくプロローグ、始まり、空気作りが完璧だと思う。簡単にあらすじを言うと下のような感じだ。

人間と化け物が対立する世界。化け物にとって人間は食料でしかなく、人間にとって化け物は恐怖の象徴だった。ある月の夜、狼の化け物が切り立った崖の上で歌っている。偶然それを耳にした王子は、その美しい歌声に聴き惚れてしまう。歌を聴くため、通い詰めるうちに、狼と王子は互いに関心を持つようになる。やがて、声の主をひと目見たいと感じた王子は崖を登る。驚いた狼は自分の姿を見られたくないあまりに動転して、王子の目を切り裂いてしまう。視力を失い、失脚した王子を救うため、狼は王子の元へ赴く。彼の手を引くため、姫の姿に化けて。姫の姿になるために狼が払った代償は、その美しい歌声だった。

こうして書いてみるとあっさりしているような気がするけど、絵と動きがつくと、切なさが倍増する。公式に配信されているPVを見るのが一番いい。


嘘つき姫と盲目王子 イメージムービー

本編にさえ含まれてない演出が大盛りで、物凄いドラマチックに仕上がっている。 狼は王子のことが好きなんだけど、そんな化け物が愛されるわけないから、嘘のまま接し続けなければならない。こういう爆弾を抱えて取り繕いながら過ごして行くところが、凄く物語的で良い。 下のようなモノローグも象徴的だ。

嘘の姿じゃないと… あなたに 触れられない

本当のわたしでは あなたに 触れられない

このストーリーと、パズルの仕掛けが本当にうまく噛み合っている。プレイヤーは狼を操って障害を排除して、王子の手を引く時だけ姫の姿に化ける。話してるとめちゃくちゃ面白そうに見える。

ところが、ここまでの前段があまりに完璧すぎて、そのあとが、あれっ、思ったより普通だなあと思ってしまう。他の化け物に襲われたりするけれど、基本的に狼は無敵。色々な起伏がありながらも、最後は何とかハッピーエンド、という感じだった。これがどうも童話っぽい感じでもやもやする。いや、それは正しい。優しい。綺麗な終わり方だ。めでたし、めでたしと結ばれる昔話に連なる王道だ。

そこでようやく、自分はもっと姫をもっと苛めて欲しかったんだなと気づいた。本編は優しすぎる。狼は強靭な肉体を持つのだから、ボロクソに傷きながら王子に尽くすことが可能だろう。そういう壮絶な献身を見たかった。変身する度に苦痛を伴うとか、爪が剥がれるまで走るとか、全身大火傷になるまで王子を庇うとか、もがきながら進んでいく姿を見たかった。そういう並み外れた苦難の中に、信念とか真心とかそういうものが輝くのを見たい。ハッピーエンドにたどり着くまでにもっと地の底へ落ちて欲しかった。サイコ野郎ですまんな。

そうして全部が終わって、確認のためいま一度ゲーム画面を開く。背を向けた狼が月を見上げながら、口をぱくぱくと動かしている。何かを歌っているようだ。背景に流れるピアノの音色が泣けと言っている。 この不完全な美しさよ。これまで話したことの全てを、一番最初の画面で想起させられる。それを駄作ということはできない。足りてない事がたぶん、いくつも挙げられるだろうけど、それをいちいち突きあげて何になるだろう。感動がぬるくなるだけだ。