プレゼンつっこみおじさん

 人のプレゼンを何度か聞いてきて突っ込みたいなと思いながら結局言えずじまいのことがたくさんあるので、ここに書き並べることにする。

 まずひとつ目は、プレゼンのタイトルについて。タイトルは自由につけてよいと思うが、最も無難なのは「私と○○」だと思う。○○のところには、趣味とか技術とか発表内容をいれる。これが無難な理由は、発表内容がどんなものであっても「個人の視点でみた○○との接し方」を語っているのだから、聴衆が納得しやすいということだ。とはいえ、こういう無難なタイトルは刺激が少なくてつまらないと言われてしまう可能性は避けられない。

 刺激的・挑発的なタイトルをつけるのも悪くはない「お前らの○○は間違っている」とか「○○になるための10の方法」とか「まだ○○で消耗してるの?」とか。ただその場合、聴衆は「おう、上から目線から来たなオイ、少しでも間違ったことを言ったら叩きのめすぞ」と身構えるので注意が必要だ。けれど、そんな風に感情を揺さぶるタイトルのほうが、議論がヒートアップして面白くなるのかもしれない。

 二つ目は「その言葉いる?」って話。いやまあどんな言葉を使うのも自由なんだけど「平仄をあわせる」とかいくらでも簡単に言えそうなことをわざわざ難しくしたりとか。あと意味の広い言葉をホイホイ使うのも気になってしょうがない。「社会実装」とかなんやねんって。関西人でもないのに関西風ツッコミしたくなるくらいにはソワソワしてしまう。そらまあ想像できるよ。人は想像する生き物なので。でもなんか各自想像して話を進めるのって間違った方向に進みそうな気がするので、やはり避けるべきことなのだと思う。

 三つ目は、何かを比較するときについて。プレゼンでは「A より B のほうが良いです」と主張することがよくある。たとえば Safari より Google Chrome のほうが便利ですとか。犬より猫がかわいいですとか。そういう風に比較をするときは、まず A と B は比較可能なものにしなければならない。

 何をそんな当たり前のことを、と思うかもしれないが、意外とできてない。「絶対にそうしろ。振り返り悔改めよ」と声を荒げたくなるくらいには、できてない。できてない例を言うなら、移動手段を比較するときに「徒歩」と「自転車のBROMPTONに乗る」とかを比べだす人がいる。わりといる。普通に考えれば「徒歩」と「自転車」で比べるべきなのに、片方だけやたら詳しい。おそらくその人はBROMPTONの自転車に乗っていて詳しいから、ついそれを話してしまうのだろう。犬猫比較の例もそうだ。「コーギーは猫よりかわいい」とか言い出してしまう。気持ちはわかるけど、おかしいことに気づいて。

 そして A と B が比較可能になったら、かならず表を作れ。せっかく比較対象を持ち出したのに比較しない人がいる。たとえば「価格を見ると B より A が安いです」と入った後に「使いやすさの点でいうと A が使いやすいですね」みたいな物言いだ。聴衆は心の中で叫んでいる「B は使いにくのか? どっちやねん」都合の良いポイントだけ比較して A を売り込もうとしているのかと勘ぐってしまうし、とても聞いていて落ち着かない。

 最後はドンデンドンデン返しについて。ここで言いたいのは「主張を何回も反転させるな」ということだ。思考の流れとしてはスムーズだったとしても、主張をめちゃくちゃかき回す人がいる。たとえば次のような感じだ。「最初は A と思ってました。しかし B ということがわかり、A ではないと思いました。ここで実験を試みて B が疑わしいということがわかりました。それを突き詰めることで、やはり A であるという結論に至りました」あーはい頑張りましたね。と言いたくなる。いやまあ頑張った物語を伝えたいならそれで正解だしドラマチックで面白いんだけど、あなたが伝えたいのはドラマじゃないでしょ。的な。いやまあ楽しさも大事だけどさ。

 どうしたらいいかというと「いろいろ実験した結果 A ということがわかりました。B と思うかもしれませんがこれを否定する材料はこれこれです」みたいな展開にすればいい。そうすればさらなる否定材料 C D E が出てきてそれに立ち向かっていくようなストーリーにもできる。こういうの、本当にこだわらない人も居て、発表者の気持ちをトレースしたいと考えてる人にとっては、ドンデンドンデン返しは、まるで少しも気にならないようだ。

 こういう感じで本当に色々と悶々としている。探せば多分もっとあるはず。でもそういう指摘ってだいたい相手を萎縮させるだけで嫌われるので、あまり言わないほうがいい。なぜなら直さなくても、中身は八割がた伝わるから。あと発表した人が議論したいのはそういう部分じゃなくて中身の話だから。そう、普段は口を閉ざしておくので、書捨ての日記くらいは。