緩む

カーテンのない窓から朝日が差し込む。鮮烈な眩しさに目を細める。耐えられない。昨晩は遅くまで起きていたので眠り足りないが、この環境下では起きるしかない。

引越してから一週間が経つ。見慣れないと感じていた部屋の内装。つやのあるフローリングと、真っ白な壁紙。それらに目を向けても、何の感情もわき起こらなかった。数日前に感じていた心のざわつきは、もうない。

いつもなら、とりあえず机に向かってパソコンを起動させるところだが、すっかり片付けてしまって、どこのダンボールに眠っているかもわからない。ぼんやりしたまま朝食を食べた。ずるずると麺をすすりながら、どこへ行こうか、という言葉が浮かんだ。どこにも行くつもりはないのに。

隣の部屋でテレビの音が聞こえる。聞き覚えのある声だった。父が、昨日見ていたドラマだ。マリオというアンドロイドと、至という少年の話だった。録画してあったものをもう一度見ているようだ。マリオには欲望がないから人間としてつまらないと言われている場面だ。

父は上機嫌に、ここが良いんだとか、奥が深いとかそんなことを言っている。しかし、母は興味がないようだ。素っ気なく返事をしている。やがて部屋を去る足音が聞こえた。すぐにテレビの音声が将棋番組に変わった。なるほど、一人では意味がないという事だ。父はドラマをもう一度見たかったのではなく、誰かと分かち合いたかったのだろう。

食後も皆が横になる。家全体が無気力な感じだ。結局各々が昼寝をして過ごした。物語性のない日常だ。若さがない。誰かと分かち合いたいと思える喜びもない。日が暮れて質素な夕食をとり、それぞれがベッドや布団に帰っていく。この暮らしが果てしなく続いていくような気がして、寒気がした。