まとまらない日常とノイズ

  • 寝癖のついた頭で歯ブラシをこすっている。洗面所に来た彼女が、何か声をかけてくれた。返事をしようとしたら、言葉にならない泡を吹いて。思わず二人とも笑った。(もちろん、そんな事実はない。妄想である)
  • 鏡も見ないで着の身着のまま家を飛び出し、田舎へ向かう電車に乗った。国立博物館への案内を聞き流して、何もない駅で降りる。真っ先にぼろぼろの建物が迎える。コンクリートが剥がれて剥き出しの鉄筋が覗いている。天候は曇天、晴れを見たのが一体何日前なのかというほど、太陽はぐずついて二度寝三度寝を繰り返している。
  • 猫にとって、接待の時間は5分ほど。それ以上の時間はもらえなかった。
  • 車のエンジンをかけると、入れっぱなしになっていたCDから、時代がかった曲が流れてきた。しかし、歌い出しの数小節を聞いただけで、母はボリュームを絞る。もう、CDなんて捨ててしまったから、これしか残っていなくてね。もう嫌になるくらい聞いたのよ。
  • ピンボケ状態で歩く。車と人を避けて大通りから1つ外れた道を歩く。スラムのように落書きと汚れ、埃に満ちている。駐車場の「空」という字が目を引いて。苛立ち混じりのクラクションで我に帰る。蝉が遠くで鳴いている夕暮れ時だった。階段を登り、自室の鍵を回す。薄っすら滲む汗を拭い、自らの心拍を確かめたあと、水道水を飲んだ。
  • 朝食を抜いてきたので何か口に入れたかった。しかし、まだ正午まで一時間もある。手頃な店は、どこもかしこも準備中の看板を下げている。あてもなくさまよった末に、カレー屋に辿り着いた。地図を見なかったら絶対に見つけられなかっただろう。薄暗く、狭い路地の奥にあった。こんな時間だというのに、行列ができている。蔦に覆われたアパートを改造した店だった。前に並んでいる男女が、記念の顔出しパネルを手にとって写真撮影に興じていた。ほどなくして店内へ導かれた。乾燥させたハーブを詰め込んだ瓶がいくつも並んでいる。店員たちは忙しなく働いている。店長だろうか。キャップを後ろ向きに被った髭の男性がカレーを運んできた。スチールの皿の上に丸く盛られた細長い米。これをスプーンで崩してカレーに浸しながら食べる。口に含むと舌に痺れを感じる。時折ナッツの軽い食感。やがて滝のように汗が噴き出してきた。次の客が並んでいるため、汗が引くまでのんびりしているわけにもいかない。店を出たが、やはり汗が気になる。とにかくどこでも良いので涼みたかった。すぐ近くのスーパーが開いているのを見て、すぐさま足を運んだ。店頭には両手に収まらないほどの大きな西瓜が並んでいる。値札は3000円。一人者には絶対に必要のない代物だ。しかし、これを持ち帰った家族もあるのだろう。ぽっかり隙間が空いている。西瓜を食べたのはいつだろう。遠く感じられるほど過去の話だ。落ち着かない気持ちで、ポケットの中のキーをもてあそぶ。
  • 遺骨を海に撒いてくれという願いを聞き届けるために、旅をするのであろう。