夏の断片

  • 週末は実家に帰り、道すがら花火を見た。夏のごとき行い。
  • 民家の隙間から見る花火は、わずか数秒の中に、赤や黄色オレンジに緑の色を尽くしている。最後は重力に引っ張られて下向きに火が落ちる。鮮やかな。明るい色。大玉が打ち上がる。音が遅れてやってきて、そうか稲妻と同じだと気がついた。近くの雲が花火の色をもらって、少しばかりネオンカラーに色づいて見えた。
  • 日が暮れる頃、電車で座っていると、若い女性四人組が乗り込んできた。みな違った彩りの浴衣を着こなしている。中でも鮮やかな藍染の浴衣に目がいった。菖蒲の花びらと、青い金魚が描かれている。二秒も視線を奪われた。衣類がその人となりを表しているとは思えないが、こんな人がそばに居てくれたらという錯覚をみた。すぐに視線を切って、それきり記憶から消した。
  • 普段行かない店へ行く。頼んだ料理はチキンにチーズをのせ、バジルソースをかけて焦げ目がつくようにオーブンで焼いたもの。カボチャのマッシュサラダ。輪切りのレモンが清涼感。カウンターのお姉さんが、夜映画を観に行く相談をしていた。籠にはみずみずしいレモン。
  • 深夜に冷蔵庫を開けて、残しておいたシュークリームを持ってくる。かぶりつくと中に詰まったクリームがはみ出してしまった。誰も見ていないのをいいことに、こぼれたクリームをなめとる。滑らかで、甘い。
  • 咳が止まらず、ほとんど眠れなかった。昼過ぎには家を出て駅まで車を出してもらった。住宅と田畑が途切れ途切れですっきりしない風景。水田の近くでたむろしていたトンボが散っていく。
  • 最寄駅の待合室は、空席が目立った。空調が効きすぎるほど効いていてありがたい。幼い姉妹と両親がやってきた。ピンクのボーダーカラーのドレス。腰には大きなリボン。パールのネックレス。ヘアバンドにはカーネーションの花飾り。妹はバレエシューズのような平たい靴を、姉は黒く艶のあるかかとの高い靴を履いている。なにかのパーティーに出席するのかもしれない。