物語

寂しさ

ただ生きるのにいっぱいっぱいで溺れそうだ。社会人を演じている自分が、いつか壊れてしまうのではないかと不安に覆われる。抵抗しがたい、漠然とした何かが、ふとした時間の隙間や、眠れない夜にやってくる。 何でもいい、誰かに話しかけたい。 未来が見え…

断捨離と疲弊

退職を期に、家を引き払うことが決まった。引越し先は今の家よりもずっと手狭なアパートだ。部屋数も間取りも大幅に小さくなる。両親を巻き込んで、かつてないほどの大掃除が始まった。 容量を超えて詰め込んだために、ひずんでいる本棚。引き出しが重たくな…

退職

辞めることは少し前から心に決めていたのに、それを宣言しようとするたび、喉が詰まったように言葉が出なくなった。季節が変わって、新しい仕事が始まろうとしている。何も言えないまま、キックオフ会議に参加してしまった。この後ろめたさ。すべてが明るみ…

海月水族館へ

悲しいことがあると知らず知らずのうちに海月水族館へ足が向く。人工海岸を歩いた先にある、そのちっぽけな建物には、ほとんど何もないけれど、名前の通り海月だけはいる。 「よくきたね。外は寒かっただろう」 重たい扉を開けると、それこそ海月のような髭…

父は戦争に行った

父は魚市場に勤めている筋肉質な男だった。よく二の腕の筋肉を見せつけ、僕らに向かってぶら下がってみろと言った。そして、僕の体重ではびくともしないことを自慢するのだった。思い出すと笑えてくるくらい、芝居がかったやり取りだ。何かのドラマを真似し…

ニーナ

疲れ果てて帰宅すると、着替えもせずにベッドの上に倒れ込んだ。疲れた。仕事がうまくいかない。全部がうまくいかない。帰っていいぞと言われるまでただ壁の模様を眺めていただけだ。それなのに疲れている。精神か。あるいはそれ以外の魂が疲れている。もう…